アツイ
「あっちぃ〜っ」 レモンイエローの前髪がバサリと床に触れた。 「あついよぉー」 さっきから口から出る言葉はほとんど同じ。 ついに誠志郎は仰向けに寝転んだ。 今の季節、夜だというのに蒸し暑い。 リンリンと鳴いている虫の声が、少しは涼しく感じさせてくれているのかもしれない。 が、やっぱり暑いものは暑い。 「あ゛ーうるさいぞ! さっきからぎゃーぎゃーと」 今まで我慢していた柊一だが、ついにキレた。 「しょうがないだろ、暑いんだからっ」 誠志郎も負けずと反論する。 「だからってぎゃーぎゃー喚いたところで変わらないんだ。居候なんだから少しは気を使え」 「ぶぅー、すみませんでしたねっ」 誠志郎は可愛らしく頬を膨らませて言った。 柊一はその様子を横目で見て密かに思う。 (僕より年上のくせに……可愛い……) その彼は今、机に向かって夏休みの課題にとりかかっている。 御霊部という組織に所属していると言えど、彼とて一応高校生。 ちゃんと宿題はやっておかなくてはならない。 誠志郎にはこれといった宿題などないだろう。 だったらなおさらこちらに気を使って、勉強を手伝え……とまでは言わないからせめて静かにしてくれ! という柊一の心の叫び……。 (静かになったな楠木の奴……このごろ居候居候って言いすぎかな?) 同じ部屋に居る限り、わーわー喚かれるよりこっちの方が勉強に集中はできる。 がしかし、やっぱり何かひっかかる……。 (もぅっ) 「おい楠木っちゃんと生きてるかー? 暑さのあまりへばったってことないよなぁ?」 宿題をする手は動かしたまま、柊一は少し大きめの声で問いかけた。 しかし返事はなかった。 まさか本当にっ?! と柊一が一瞬焦りかけたとき、何かぼそぼそと聞こえてきた。 (あ? 何だ……?) 少し気味悪くなって、微かに何かが聞こえてくる方にそーっと目を向けた。 ――柊一の視線の先は、無防備に仰向けのままの誠志郎。 「何だ……楠木の寝言か?」 (驚かすなよな……) 「この暑い中よく眠れたな……」 安心して再び勉強に戻ろうとしたとき。 「飛鳥井……」 「!! 何だぁっ?!」 突然囁くように誠志郎の口から発せられた声。 気を抜いた次の瞬間のことで、かなりびっくりした。 「――邪魔してごめん……」 「えっ?!」 誠志郎の口から謝罪の言葉が出てきた。 それと、もう1つ…… 「”飛鳥井のこと……好きなのに……”」 「なっ」 「楠木ー起きろ!」 すっと息を吸い、柊一は声を張り上げた。 「う、んー……飛鳥井……?」 誠志郎は柊一の声で目を覚まし、重たそうに瞼が持ち上がった。 まだ頭までは覚醒していないようだ。 「楠木……僕もだ」 柊一は誠志郎の顔の横に手をついて体を支え、顔を近づける。 (へっ……?!) 一体何のことかと考えることも出来ずに、柊一の顔を見ていた。 そして、唇に柔らかい感触が残った。 「あ、あすか……い?」 誠志郎は驚いて目を見開き、戸惑いの視線を柊一に注いでいた。 何をされたか気づいたとき、眠気は一気に吹っ飛んだ。 「楠木、おまえどんな夢見てたんだ?」 柊一が訊ねた。 「え。んーと……さっきのまんまだよ……飛鳥井の宿題の邪魔になって、怒られてた……」 誠志郎は額に手の甲を乗せてつぶやいた。 「それでおまえはどんな気持ちだったんだ?」 柊一は質問を続ける。 「え? どんなって…………あ゛ーーっ!!」 誠志郎はいきなり飛び起きた。 「楠木何か言ってたよな。あれ本音?」 誠志郎の顔がさぁぁっと赤く染まった。 「もしかして、声に出て…た……?」 「あぁ。ありえないってくらいしっかりとした寝言だったぞ。で?」 「――う、うん……ほんと///」 顔を赤くしたまま可愛らしくうなずく。 「ちなみにさっきのが僕の答え」 「え……?」 「僕もだよ。楠木と同じ気持ちだ」 柊一はそう囁いて、さっきよりも少し長めのキスをした。 |
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