あたためられたもの

 

 

「いつの間に冬になったんだ」

口から漏れる息は白い。

柊一は冷えた手をこすり合わせながら、ハァーと息をはきかけた。何もしないより少しはマシだ。

「楠木のやつ遅い!」

今日なら会えそうだとか言って呼び出したくせに。

 

いつもは双方とも仕事が忙しくてなかなか会えないのだ。誠志朗がオフでも柊一が仕事だったり、その逆パターンもある。

それが今日は柊一の方もコレといった仕事がなく、早めに切り上げて来れた。

こんな日なかなかない。だから電話がかかってきたときはとても嬉しかった。それから楽しみに待っていた。

「少なくとも僕の方はな……」

ぼそりとつぶやいて近くにあったベンチに座った。

あたりは薄暗く、一人で待ちぼうけているのがむなしくなってくる。

柊一は空を仰ぎ見た。

薄く月が見える。ちょうどきれいな満月だった。

「やっぱ無理なのかなぁ……」

月に語りかけるように言った独り言。

当然返事がかえってくるとは思っていなかった。

そのため、後ろから声が聞こえてきたのにはビックリしてしまった。

「なにが無理なんだ?」

「!? 楠木っ?!」

思わず立ち上がって振り返ると。

後ろに居たのは、よく知っている、早く会いたいと思っている人物だった。

誠志朗がベンチの後ろから柊一の近くに来た。

「おまえ……」

「わー悪かった飛鳥井! アリにつかまっちゃっていろいろ邪魔を……て、飛鳥井?」

誠志朗は遅刻したせいでいろいろ言われると思い、その前に理由を説明しようとした。

いつもならそれもかなわず、結果的に柊一の説教を聞くはめになるのだが、今日は違った。

ひとこと「おまえ」だけで止まっている。

「おい柊一? まさか怒る気が起きないほど怒ってる?」

その問いに、柊一は首を左右にふった。

「じゃあ一体――

「来てくれたから……。楠木、もう来ないかと思っ……また会えないのかと……」

「柊一……」

「来てくれて、ありがとう……」

消えそうな声。

こんなに不安にさせていたなんて……。一秒でも早く来ればよかったと誠志朗は後悔した。

「ごめん柊一。ごめんな……」

堪らず柊一をぎゅっと抱きしめた。

きっと体は冷えてしまっているのだろう。

「柊一、手は?」

「うん?」

誠志朗は柊一の手をつかんだ。

「うっわ、冷た……」

ずっと水に浸していたかのように冷たかった。この寒さの中、手袋もしないで晒していたのだから当然だ。

「楠木が早く来ないからだ」

「本当に悪かったよ……」

そう言って、柊一の手よりほんの少し大きい手で暖めてやる。

「あったかい……」

「早く柊一に会いたくて急いで走ってきたから、今体が暖かいんだ」

それを聞いて柊一は嬉しくなった。

「そういえば。さっき言ってた言葉……。何が無理なんだ?」

珍しく柊一が弱気なことを呟いていたと思い出す。

「んー、あれはなんでもない。もういいんだ。忘れた」

「そうか。――柊一」

誠志朗は今誰よりも愛しいと想う恋人の頬を両手で包み込んだ。

「なんだよ……」

顔を赤く染めながら恥ずかしそうに目を逸らされたけれど、その瞳を覗き込んで

「好きだよ」

そう言って、そのまま下から口付けた。

「ん……」

 

「少しは暖まったか?」

誠志朗の問いかけに柊一はコクリと頷いた。

「寒くたって柊一といるとあったかくなれるんだよなー、心も体も。不思議」

誠志朗は笑顔で言った。

柊一は心の中で僕も同じだとつぶやいて、言葉の代わりに今度は自分から唇を重ねた。

 

冬空の下。

とっても温かくて幸せなヒトトキ。

 

 

 

 

 



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ひ、久しぶりの聖霊狩り!
誠柊でラブラブな感じになった…と思います。
どうですか?(なにが
2004-11-15


寒い中待たせた罰だ。何かおごれよ

 


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